xTalks Vol.31では、「教育DX」「ゼロトラスト」「データ活用」をテーマに、学校現場・行政・大学がそれぞれの立場から本音で語り合いました。
堅いテーマと思いきや、会場には笑いと共感があふれ、まさに“人間中心のDX”を体現する回となりました。
一人目は、大阪府教育庁のネットワーク刷新プロジェクトを率いた大堀さんです。
従来の“領域分離型”校務ネットワークでは、インターネット接続できるモードと成績処理など機微な情報を扱うモードが分かれ、教員は何度もログインし直す非効率な環境にあったそうです。
その課題を解消するため導入されたのが、「ゼロトラストネットワーク」。
「何も信頼しない」を原則に、すべての通信とアクセスを検証するセキュリティモデルで、クラウド化・無線化を進めることでどこでも安全に働ける環境を実現しました。
ゼロトラストとは、ただセキュリティを強化したという話ではく、先生たちが効率的に仕事を進められるよう支援することなんです、というのがすごく心に刺さりました。
たしかに、“信頼しない”という前提は、逆説的に“人を信頼する”ことにつながるんだというのはそのとおりだと思います。
また、私としては、初期費用の高さを「6年間の運用でのコスト削減」で説得し、予算を確保したというエピソードは、理想と現実をつなぐ現場発のDXモデルとして最高の考え方、説得の仕方だと思いました。
これは説明される側の経営センスが問われますね。
二人目の登壇者は、玉川学園・玉川大学の情報基盤整備を担当する岩澤さんです。
大規模な学校法人におけるの“現場の声”を届けました。
玉川学園では、K-12(幼・小・中・高)は Google Workspace ベースの「CHaT Net」、大学で Microsoft365、UNITAMA(校務システム)+Blackboard(LMS)という、まったく異なるシステムが併存しています。
岩澤さんが、その橋渡し役として導入したのがクラウドストレージ Boxです。
このBoxを、異なるプラットフォーム間の“断絶”をつなぐ共有ハブとして機能させたいという構想だそうです。
岩澤さんの話は、単なる技術解説にとどまりらず、鋭い考察をされていました。
生徒のデータは蓄積されているのに、活用されていないこと。とくに学籍の断絶が“教育の断絶”になっているというのが大きな課題なのだということがわかりました。
学籍番号が小学校から大学まで統一されておらず、20年分の学びのデータを一気通貫で追えない構造的課題があるわけです。
私としてはやはり、システム連携の前に、人の連携が必要だなって本当に思いました。
岩澤さんの報告は、玉川学園という“教育の縮図”を通して、日本の教育データ基盤が抱える本質的な問題を鋭く浮かび上がらせるものだったのではないかと思います。
LT(ライトニングトーク)では、教育やDXをめぐる多様な現場の実践が紹介されました。
先生がどこで働くかを選べることこそ、働き方改革という教職員の視点
学生による防災ボランティア活動をSharePointで運営し、情報共有を改善した大学生の挑戦
日本酒づくりにAIと統計解析を導入し、「データを読むのはAIではなく人間」と語った醸造の現場の未来
小さなDXが、確かに人の働き方や学び方を変えつつあることを実感できる時間となりました。
総括すると、Vol.31のテーマ「ゼロから始める校務DX」は、単なるシステム導入の話ではありませんでした。
大堀さんの「セキュリティが働き方を支援する未来」と、岩澤さんの「人とデータがつながるDX構想」。
両者が示したのは、“人を中心に据えたDX”の原点だったと思います。
それもあって、テーブル座談会もそれぞれのグループで多様な盛り上がりがあったようです。
DXとは、データやシステムではなく、人と人とをつなぐ仕組みをつくること。
今回のxTalksは、その原点を改めて思い出させてくれる回となりました。
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xTalks Vol.31
テーマ:ゼロから考える校務DX-データと人がつなぐ未来像-
「校務DXは“働きやすさ”と“学びやすさ”を両立できるか?」
学校現場におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、単なる業務効率化にとどまらず、教育の質や学園のあり方そのものを根本から変える力を持っています。成績や出欠といったデータの活用はもちろん、部門を越えた情報共有、セキュリティと利便性の両立、そして教職員や学生がもっと自由に動ける環境づくりへとつながっていきます。
今回のxTalksでは、こうした「校務DX」をゼロから捉え直し、データと人がどうつながれば未来の玉川学園・玉川大学のビジョンが描けるのかをテーマに、多様な立場の参加者とともに議論を深めます。現場の工夫や行政の取り組みを学びながら、「わたしたちにとって理想の校務DXとは何か」を一緒に考える時間としたいと思います。
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日時:2025年10月17日(金) 18:00-20:30
場所:Zoom
話題提供:
①大堀順平 さん(大阪府教育庁 教育総務企画課)
「ゼロトラストを踏まえた情報基盤の整備とその意義」
https://reseed.resemom.jp/article/2025/06/30/11203.html
②岩澤孝徳 さん(玉川学園 総務部 情報基盤システム課)
「総合学園の情報基盤・データ連携の現状と課題」