教育学部の濵田です。
近年、やたらとSDGs(持続可能な開発目標)という用語を聞きませんか?
その理念の言いたいこと、伝えたいことはよく分かります。
しかし、それがどのように我々と関連するのか、イメージをつかめている人は多くないように思われます。
CO2の削減、カーボンニュートラルという話題以外には。
そこで今回、観光という親しみやすい話題をxTalksで取り上げ、SDGsとの関係を考えてみることにしました。
まず、観光学部の谷脇茂樹先生より「観光とSDGs」をお話しいただきました。
これまでの大量生産・大量消費社会では、マス・ツーリズムが主流でした。
しかし、これからの時代はマスから個人主体となり、観光客の内面(目的)を重視したツーリズムへと変わりつつあります。
同様に、地域においても伝統文化や環境の保護、そして経済活動との調和を前提とした持続的な観光の在り方が問われるようになりました。
その結果、新しい観光指標JSTS-Dが制定され、地域の成長・進化を促すエコシステムの形成や、観光地域づくりが注目され始めたところです。
こうした観光の最新動向をご紹介いただきました。
続いて、教育学部の小林亮先生より「SDGsとユネスコの変容的教育」をお話しいただきました。
SDGsはグローバル人材育成の鍵であり、「お互いの文化を知ることが平和の礎」(ユネスコ憲章の精神)となります。
そのため国際理解(異文化理解)教育や世界遺産教育が重要なのであり、こうした観点から観光教育をとらえても良いのではないか、というのが小林先生のご提案です。
ユネスコの変容的教育によってもたらされるのは「共生」の思想です。
だからこそ「誰一人取り残さない社会」に至るのであり、そうなることこそがSDGsの狙いでもある、とのご説明をいただきました。
話題提供を受けて、テーブル座談会では「地域の魅力を発見する旅、どういう仕組みや体験を入れたらいい?」という話題について、参加者にじっくりと話し合っていただきました。
座談会での意見をご紹介します。
・その地域で出来ることだけでなく、できなくなることを体験してもらう
・リピーターの獲得が重要で、それは地域の人とのコミュニケーション(語り部の存在)が鍵
・自分の地域外を知ることで、自分の地域をあらためて知ることができる
・地域の魅力を発掘するには外部との意見交換が必要で、なかでも地方から外に出た人が鍵
・教育旅行で被災地を見せる時に、悲惨な部分だけ見せるのではなく、復興に向けた頑張りも見せるのが良い
・価値判断が必要な教育では、学生が予め視点取得をしていることが重要で、複眼的思考ができるからこそ価値判断をさせる意味が出る(これは歴史を考える観光教育でも重要)
・歴史を考える観光教育では、宗教の問題を除いて話すことは出来ない(世界遺産の8割は宗教関係)
・もともと日本にはお遍路があり、人を接待して人との深いかかわりを持つ、そうした観光文化が既にあるはずだ
以上のように多種多様な意見が出てまいりましたが、観光とSDGsについて考える場合、次の二つの観点に整理することができそうです。
一つは、観光客の立場。もう一つは、観光を受け入れる地域の立場。
それぞれの立場からSDGsとの関連を考えていくのがよいかもしれません。
観光客の立場では、特に教育的観点の観光の場合、現地の生の声を知ることが重要という意見が出ました。
それは、時には価値観の対立を来すもこともある、そうした生の声です。
一方で、地域の生活感や日常の雰囲気といった、そうした意味での生にふれることにも十分に意味がある、という意見が出ました。
いずれにせよ、「生」という言葉が、一つのキーワードとして浮かんでまいりました。
地域の立場では、地域のコミュニティーをいかに存続させていく、この仕組み作りがまず重要であるとの意見が出ました。
これから地域でどのようにJSTS-Dを共有し、共感を作り上げていくのか。
これを丁寧に地域からやっていくことが、地域の大きな課題です。
また、華々しい観光資源がない地域でどのように自尊感情を持つか、強制されたものではない地域愛をいかに育むかという根本的課題についても、議論に発展しました。
ローカルメディアがすでに発見している、そもそも発見する力がないと人生を楽しめない、地元から外に出て感じるサウダーデ(郷愁)が地元愛を育てる、という指摘は、大きな気づきでした。
最後にまとめると、観光に関する理解を深めるには、まずは地域をどう見るかという視点を育てることが重要と言えそうです。
自分事として地域をとらえる仕組み、それは他の地域との対比や対話、地域を見つめる視点の獲得によってなされるのかもしれません。
教育に携わる立場として、あらためて自分の取り組むべき方向を教えていただいたような、そのような思いがいたします。
皆様の思いあふれた貴重なご意見、まことにありがとうございました。
次回、ふたたびクリエイトできる機会を、楽しみにしております。