「休んでください。」
私たちはそう言われることには慣れています。
疲れたら休みなさい。
無理をするな。
有給を取りなさい。
けれども、不思議なことがあります。
私はこれまで何度も「休め」と言われてきましたが、「回復しなさい」と言われた記憶がほとんどありません。
そもそも、休むことと、回復することは同じなのでしょうか。
もし違うのだとしたら、私たちは「回復」についてどれだけ知っているだろう?とかなりモヤモヤしてしまいます。
休日を取ったのに疲れが抜けない。
しっかり寝たはずなのに身体が重い。
何もしないで過ごしたのに、気持ちが晴れない。
そんな経験は、多くの人に心当たりがあるのではないでしょうか。
自己紹介が遅くなりました。
今回のコーディネータ役の玉川大学工学部の小酒井がレポートさせていただきます。
今回のxTalks Vol.37では、「回復をデザインせよ」をテーマに掲げ、教育、スポーツ科学、テクノロジー、環境デザインという異なる視点から、人が回復するとはどういうことなのかを考えました。
<話題提供①>
阿部 隆行 先生(玉川大学教育学部教育学科)
「もしも学校に「休養」という授業があったら〜休むことで夢を叶える令和版健の教育〜」
私はタイトルを聞いただけで、少し考え込んでしまいました。
阿部先生のおっしゃるとおり、
学校には体育があります。
食育もあります。
しかし、「休養を学ぶ授業」はありません。
阿部先生は、現代の子どもたちを取り巻く環境として、睡眠不足や運動不足、長時間の座位行動、スクリーンタイムの増加などを挙げながら、「回復する力」を育てる教育の必要性について語られました。
私にとって、特に印象的だったのは、超回復とオーバートレーニングの話です。
人は負荷をかけることで成長します。
しかし、その成長は負荷そのものによって生まれるのではありません。
回復によって生まれるとおっしゃるのです。
たしかに、十分な休養があって初めて、身体も心も次のステージへ進むことができます。
逆に、回復しないまま走り続ければ、やがて疲弊し、パフォーマンスは低下していきます。
それはスポーツだけの話ではありません。
勉強も仕事も、研究も、子育ても同じです。
頑張る方法は教わる。
でも、回復する方法は教わらない。
そのアンバランスさに、あらためて気づかされました。
阿部先生の話の中で、「体育があるなら、休育があってもいいのではないか」 という言葉がありました。
言われてみれば、その通りです。
私たちは運動の仕方は学びます。
食事の大切さも学びます。
しかし、どう休めばよいのかは、ほとんど教わったことがありません。
睡眠不足が問題だと言われる。
スマホを見すぎだと言われる。
もっと運動しろと言われる。
でも、その先にある「回復する力」をどう育てるかについては、驚くほど語られてこなかったように思います。
さらに阿部先生は、「体育」の『体』から一本線を引くと『休』になることを示しながら、「その一本線は玉川の『夢』にもつながる」と語られました。
そう。玉川の「夢」は一画多いのです。
参考:https://www.tamagawa.jp/introduction/history/detail_10927.html
休むことで英気を養い、夢の実現につなげる。
会場からは思わず笑みがこぼれましたが、その中には、休養を単なる息抜きではなく、よりよく生きるための力として捉え直そうというメッセージが込められていました。
休養とは何もしないことではない。
むしろ、自分自身の状態を理解し、その時に必要な回復方法を選択すること。そのための知識と実践こそが「休養リテラシー」なのだと感じました。
<Lightning Talk>
今回のLightningTalkでは、玉川アスレチックス・デパートメント(TAD)の内藤誠哉さんから、玉川大学とリカバリーウェアメーカーVENEXとの包括連携協定について紹介がありました。
睡眠やセルフコンディショニング、ウェルビーイング向上に関する共同研究や教育活動など、大学という場で「回復」を実践的に探究する取り組みが進められていることが共有されました。
私自身、あまり意識していませんでしたが、これはすごいですね。
次の東洋メディアリンクスの北澤さんと、私たち玉川大学との産学連携にも大きく関わってくるところです。
<話題提供②>
北澤 謙二 氏(東洋メディアリンクス株式会社)
「生活とデザイン - 会議室と癒しの関係 -」
正直に言えば、私は「回復」というテーマから、睡眠や運動、栄養の話を想像していました。
ところが北澤さんが語ったのは、会議室でした。
では、なぜ会議室なのか。
しかし、北澤さんの話を聞くうちに、その意味が見えてきました。
東洋メディアリンクスは、1957年に日本で初めてBGM事業を展開した企業です。その原点には、「高度経済成長を支える労働者たちの心身を癒したい」という想いがあったといいます。
北澤さんは、自社を「環境アーキテクト」と表現しました。
音
光
映像
香り
植栽
こうした要素を組み合わせながら、人が心地よく過ごせる環境を設計する。
それは単なる空間演出ではないのだとおっしゃいます。
北澤さんが提示されたのは、人の気持ちや行動、コミュニケーション、さらには回復にまで影響を与える環境づくりでした。
私たちは一日の多くを環境の中で過ごしています。
会社であれば会議室やオフィスですし、学校であればキャンパス、教室などです。
他にも、店舗、駅などなど。
そうした空間は、本当に人が元気になるように設計されているのでしょうか。
北澤さんは、音や光、香りといった五感への働きかけを通じて、人が自然と落ち着き、集中し、時には回復できる環境をデザインしていると語りました。
特に印象的だったのは、企業から「リカバリールームを作りたい」という相談が増えているという話です。
しかし、そこにはもう一つの課題があるとおっしゃいました。
場所を作るだけでは、人は回復しない。
休める空間があっても、そこでどう回復するのかを知らなければ、その価値は十分に発揮されないでしょう。
この話は、阿部先生が提起した「休養リテラシー」の話と見事につながっていました。
北澤さんの話を聞きながら、「玉川にもリカバリールームが欲しい」と思った参加者は私だけではなかったかもしれません。
広いキャンパスを歩き回る学生や教職員にとっても、短時間で気持ちを切り替えたり、心身を整えたりできる空間の存在は大きな価値を持つはずです。
さらにいうなら、広大なキャンパスのところどころにあるのが理想だなと思います。
回復を個人の努力だけに委ねるのではなく、環境そのものが支える。
そんな発想は、これからの学校や職場づくりにも大きな示唆を与えてくれました。
また、最後には、今後、回復を目指すスリープツーリズムの開発にむけて、参加者へコラボのご提案をされていました。
小酒井研はぜひ参加したいと思っています。みなさんもいかがでしょうか?
<テーブル座談会>
テーブル座談会では、以下の問いについて議論しました。
「なぜ私たちはうまく休めないのか」
「自分にとって効果的な休養とは何か」
「働き方や環境をどう変えれば回復しやすくなるのか」
今回も、xTalksらしく座談会は大いに盛り上がりました。
25分という予定時間が短く感じられるほど活発な議論が続き、各テーブルでは自身の経験や実践、悩みが次々と共有されました。
旅行で回復する人。
運動で回復する人。
音楽で回復する人。
人との対話で回復する人。
回復の方法は実にいろいろあるんですね。
私なんかは、研究をすることで回復するような気がしますし、趣味では漫画を呼んだり、アニメを見たり、観劇したり、温泉入ったり、ビール飲んだり、たくさんあります。
一方で、
休むことに罪悪感がある。
何もしないと落ち着かない。
休んでいるのに回復している気がしない。
といった声も聞かれました。
きっと回復にも正解はないのでしょう。
だからこそ、自分自身にとっての回復とは何かを考える時間そのものが、とても価値のあるものだったように思います。
参加者の皆さんの真剣な表情からも、このテーマが多くの人にとって切実な問いであることが伝わってきました。
今回のxTalksを企画した理由は、とても単純なものでした。
私自身、「休んでください」と何度も言われてきましたが、回復しなさいとは言われた記憶がないという話をしましたが、参加者の一人として当日の議論を聞いているうちに、その理由が分かった気がします。
休むことは行動です。
一方で、回復することは結果です。
だから私たちは、「休め」とは言われても、「どう回復するか」を学ぶ機会が少なかったのかもしれません。
阿部先生は、そのための知識や習慣を「休育」として提案しました。
北澤さんは、そのための環境をデザインする可能性を示しました。
どちらも共通していたのは、 回復は偶然起こるものではないということです。
回復は、学ぶことができる。
回復は、設計することができる。
回復は、一人で頑張るものではなく、環境や社会によって支えることもできることを、今後は多くの人や会社、学校が意識していく必要があるのだろうと思いました。
今回のxTalksは、「休む」から一歩進んで、「回復するとは何か」を考える時間になりました。
ある参加者の方に、「xTalksが私にとっても回復の時間です」とおっしゃっていただいたのがうれしかったなぁ。
さて、あなたは、自分自身の回復をデザインできているでしょうか?









